IPCCとは?
IPCCとは「Intergovernmental Panel on Climate Change」の略称で、「気候変動に関する政府間パネル」のことを指します。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって、1988年に設立した政府間組織であり、2022年3月時点で195の国と地域が参加しています。
IPCCの主な役割は、各国政府の気候変動に関する政策へ向けた科学的基礎や見解の提供です。なお、IPCC自体が調査研究やデータの監視をする訳ではなく、世界中の科学者が知見を集約し、論文や文献に基づき定期的に報告書を作成・公表しています。
【引用】:気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?(経済産業省 資源エネルギー庁)
【参考】:IPCC報告書AR6発表「2035年までに世界全体で60%削減必要」(WWFジャパン)
IPCCの報告書の種類
報告書には、評価報告書・統合報告書・特別報告書などの種類があります。1990年の第1次評価報告書(FAR)から始まり、以降5~8年のサイクルで報告書が発表されてきました。直近では第6次評価報告書(AR6)が2023年3月に公表されています。評価報告書は評価対象により分けられた作業部会による報告書から構成され、統合報告書は、評価報告書の知見を統合した報告書になります。さらに、特定のテーマに焦点をあて評価をまとめた特別報告書等も作成されています。
IPCCの報告書が持つ影響力
IPCCの報告書は、世界中の政策決定者によって引用され、国際交渉や国内政策の基礎情報となっています。たとえば、IPCCの最初の報告書である第1次評価報告書(FAR)は、1992年に採択された気候変動枠組条約(UNFCCC)における重要な科学的根拠とされました。このように、報告書は気候変動対策に関する科学的な知見を提供し、政策決定者の意思決定に役立てられています。ただし、IPCCは科学的中立性を重視し、特定の政策提案は行わない立場を保っている、という特徴もあります。
【引用】:気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?(経済産業省 資源エネルギー庁)
パリ協定におけるIPCCの報告書
気候変動に関する国際的な枠組みであるパリ協定。ここでは、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標が掲げられました。この際、1.5℃目標に関する科学的知見が十分ではないとして、IPCCによる特別報告書の作成が求められました。
2018年に公表されたIPCC「1.5℃特別報告書」では、以下の旨が記されています。
- 「地球温暖化を2℃、またはそれ以上ではなく1.5℃に抑制することには、あきらかな便益がある」
- 「1.5℃未満に抑えるためには、世界のCO₂排出量を2030年には2010年比で45%削減し、2050年前後にネットゼロを目指すことが必要」
この報告書は、その後のG7サミットやCOP26などの国際会議で、「2℃目標」と「1.5℃努力目標」の継続が再確認されるなど、政策決定において重要な役割を果たしました。
報告書作成の仕組み
IPCCは、以下から構成される組織です。
総会 ビューロー(議長団) | IPCCの最高意思決定機関であり、各国政府の代表で構成。報告書の承認・受託やメンバーの選出を行う。 |
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3つのワーキンググループ | 第1作業部会(WG1): 気候システム及び気候変動の自然科学的根拠についての評価 第2作業部会(WG2): 気候変動に対する社会経済及び自然システムの脆弱性、気候変動がもたらす好影響・悪影響、並びに気候変動への適応のオプションについての評価 第3作業部会(WG3): 温室効果ガスの排出削減など気候変動の緩和のオプションについての評価 |
インベントリー タスクフォース(TFI) | 温室効果ガスの国別排出目録作成手法の策定、普及および改定 |
【引用】:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(気象庁)
次に、報告書が作成されるプロセスや特徴ついて見ていきましょう。
報告書の作成プロセス
1 | アウトラインの作成 | 政府及びオブザーバー機関から推薦された専門家によって報告書の概要が作成される。 |
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2 | ノミネーション (執筆者推薦) | 政府及びオブザーバー機関が執筆者として専門家を推薦する。 |
3 | 執筆と査読 | 執筆者によって1次ドラフトが作成され、専門家による査読が行われる。 |
4 | 2次ドラフトと要約作成 | 執筆者によって2次ドラフトと政策決定者向け要約(SPM)が作成される。 |
5 | 最終ドラフトと承認 | 査読を経て最終ドラフトが作成され、作業部会、各国政府間で議論され、報告書が承認・受諾される。 |
【引用】:気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?(経済産業省 資源エネルギー庁)
報告書の特徴
IPCCの報告書は、最終的に3つのワーキンググループの報告書と評価報告書の知見を合わせた「統合報告書」として作成されます。膨大な作業量に加えて、専門家による入念な査読も入るため、作成には数年がかかります。また、正確性を保つために、可能性や確信度の表現などの細部にまで配慮がなされています。
第6次評価報告書(AR6) 統合報告書の内容
2023年3月20日、IPCCは最新の統合報告書(第6次評価報告書 政策決定者向けの統合報告書)を発表しました。統合報告書は100以上の国々の政府によって全会一致で承認され、その内容は今後の世界の気候変動対策に大きな影響を与えるとされています。
以下から、今回の報告書のポイントを簡単にまとめます。
AR6統合報告書の主なメッセージ(現状と傾向)
第6次評価報告書では、気候変動の現状と傾向について以下の点が指摘されています。
- 「地球温暖化を2℃、またはそれ以上ではなく1.5℃に抑制することには、あきらかな便益がある」
- 「1.5℃未満に抑えるためには、世界のCO₂排出量を2030年には2010年比で45%削減し、2050年前後にネットゼロを目指すことが必要」
【引用】:IPCC 第6次評価報告書(AR6)統合報告書(SYR)の概要(2023年4月 環境省 地球環境局)
長期・短期的見通しの更新と必要な行動
報告書の見通しによれば、2030年代前半には1.5℃の気温上昇に達する可能性がもっとも高いようです。しかし、温室効果ガスの大幅で急速かつ持続的な排出削減によって抑制しうることも指摘されています。地球の気温上昇を1.5度以下に抑えるために、2035年までに全世界で温室効果ガスを60%削減する必要性があります。この目標は、2030年までに43%の温室効果ガス削減(CO₂では48%の削減)を達成するという現行の目標に追加されたものであり、2050年までにカーボンニュートラルを実現するためには、さらにその後も削減を続けることが必要だということを強調しています。
なお、各国はパリ協定に従い、目標を5年ごとに更新し提出する必要があります。次に注目されるのは2035年の削減目標で、それは2024年の国連気候変動枠組み条約会議(COP29)で提出される予定です。
まとめ
IPCCの報告書は信頼性が高く、各政府の政策決定にも大きな影響を与える重要なものです。事業者にとっては、今後の気候変動についての知見が得られるだけでなく、企業としての対策を検討する上で重要な資料と言えるでしょう。