【2023年】カーボンプライシングとは?日本の構想についても解説 | 法人向け省エネ対策について情報をお届けするサイト
2023.08.17

【2023年】カーボンプライシングとは?日本の構想についても解説

【2023年】カーボンプライシングとは?日本の構想についても解説

脱炭素社会への移行と経済成長の同時実現に向けて、日本国内でもカーボンプライシングの構想が活発に議論されています。そこで今回は、カーボンプライシグの概要整理と日本で目指されるカーボンプライシングがどのようなものかを解説していきます。

目次

    カーボンプライシングとは?

    カーボンプライシングとは、企業などの排出するCO₂に価格付けをし、それによって排出者の行動を変容させる経済的手法とされています。

    2021年の気候変動サミットでは、各国が野心的な温室効果ガス削減目標を掲げましたが、日本においても2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減し、さらに2050年の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする方針を掲げています。

    脱炭素社会の実現に向けた有効な手段として、各国では既にカーボンプライシングが導入されています。カーボンプライシングの代表的な手法には「炭素税」や「排出権取引」と呼ばれる制度がありますが、その他にも様々な手法があります。

    次項より、カーボンプライシングの分類に沿ってその概要を解説します。

    カーボンプライシングの分類

    カーボンプライシングは実施される制度内容により、明示的カーボンプライシングと暗示的カーボンプライシングに分類されます。以下より、各分類における代表的な制度をご紹介します。

    明示的カーボンプライシング

    排出される炭素に対し、トン当たりの価格が明示的に付されるものを明示的カーボンプライシングと呼びます。排出者には、排出量に応じた費用負担が求められるため、行動変容を促せる効果があります。また、CO₂が排出されたことに伴い発生した社会的費用が可視化されるというメリットもあります。

    炭素税CO₂の排出量に応じて課税がなされる税制のこと。
    日本では未導入とされてはいるものの、実質的に「地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)」という形で、石油燃料(石油・石炭・天然ガス)の利用に対して課税がされている。
    排出量
    取引制度
    各企業がCO₂排出量の上限を設け、それを超過する企業と下回る企業との間でCO₂の排出量を取引する制度のこと。

    諸外国では1990年代以降、北欧を中心に炭素税の導入が進み、2010年代以降はアジア・南米を含む世界中で導入が進んでいます。尚、炭素税を導入している国の多くでは、経済成長も実現しつつ政策目的であるCO₂排出の削減を達成しているという報告も挙げられています。

    また、上表「炭素税」と「排出量取引制度」を比較した際の違いとして、炭素税が政府による価格設定(炭素税の税率)という価格アプローチであるのに対し、排出量取引制度では、政府による全体排出量の上限(キャップ)設定という数量アプローチであることが特徴です。

    【出典】:「地球温暖化対策税と炭素税について」(2018年11月 環境省地球環境局 公開資料) 

    暗示的カーボンプライシング

    前項の明示的カーボンプライシングに対し、CO₂排出量ではなく、エネルギー消費量に対し課税されるものや、規制や基準の遵守のために対策コストがかかるものを暗示的カーボンプライシングと呼びます。その代表例としては、エネルギー課税やエネルギー消費量や機器等に関する基準・規制等があります。これらは消費者や生産者に対し間接的に排出削減の価格を課していることからも暗示的カーボンプライシングと呼ばれています。また、制度目的が温室効果ガス排出削減以外であるとの理由から、炭素比例の負担とならないなどとし温室効果ガス排出量削減の観点では非効率と言われる場合もあります。

    エネルギー課税エネルギーの消費量に応じて課税する制度。ガソリン税や石油ガス税、軽油引取税など。
    多くの場合、炭素に価格を付ける目的で課されていないが、広く燃料に課税することで、エネルギーの消費パターンに影響し、結果として化石燃料の相対価格に大きく影響する。
    固定価格買取制度
    (FIT)
    再生可能エネルギーによる発電電力(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど)を固定価格で電力会社が買い取る制度。再生可能エネルギーの電力を購入するための費用は、電力会社自体が提供するのではなく「再エネ賦課金」と呼ばれる追加料金として消費者の電気料金に反映されている。
    規制遵守のためのコスト「省エネ法」や「温対法」などの規制を遵守するために対策コストがかかるもの。

    インターナル(企業内)・カーボンプライシング

    これまで見てきた「明示的カーボンプライシング」や「暗示的カーボンプライシング」は、いずれも政府主導による仕組みです。その一方で「インターナル(企業内)・カーボンプライシング」は、企業が独自に自社のCO₂排出に対する価格付けを行い投資判断などに活用するものです。

    世界におけるカーボンプライシングの状況

    世界におけるカーボンプライシングの状況

    次に世界でのカーボンプライシングの導入状況を解説していきます。

    EUでは、2005年に世界で初めて「排出量取引制度(EU-ETS)」を導入しました。その取引量はEU全体のCO₂排出量約40%以上をカバーすると見積もられています。韓国では2015年に同様の制度が開始されています。直近3年間平均のCO₂排出量が12.5万トン以上の事業者など約600社を対象とした制度であり、韓国の年間排出量の約70%がカバーされています。さらに、世界最大のCO₂排出国である中国も、2021年から全国規模で排出量取引制度を導入しており、現在のところ対象企業で年間排出量の約40%をカバーするとされています。

    【出典】:「脱炭素に向けて各国が取り組む『カーボンプライシング」とは?」(経済産業省 資源エネルギー庁)

    日本のカーボンプライシングは低水準?

    主な炭素税導入国の水準を比較してみると(2018年時点)、CO₂排出量1トンあたりの炭素税は約2千円~9千円で設定されています。スウェーデンでは、1トンあたり約1万6千円と最も高い水準です。それに対し、日本の地球温暖化対策税の税率は、1トンあたり289円と導入各国と比べると低い水準と言えます。

    【出典】:「地球温暖化対策税と炭素税について」(2018年11月 環境省地球環境局 公開資料) 

    日本の「成長志向型カーボンプライシング構想」とは?

    日本では2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました。GXとは「グリーントランスフォーメーション」の略称であり、2050年のカーボンニュートラルや、2030年の温室効果ガス削減目標の達成に向けた取り組みを経済成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力向上の実現に向けた経済社会システム全体の変革のことを指します。GXに向けた基本方針として以下の2つが盛り込まれています。

    ・GX実現に向けた基本方針

    1. ① エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取り組み
    2. ② 「成長志向型カーボンプライシング構想」等の実現・実行

    世界各国でGXに向けた投資競争が激化する中、日本においても、エネルギーの安定供給と脱炭素分野で新たな需要・市場を創出し日本経済の産業競争力の強化と経済成長につなげていくための施策が実行に移されている段階です。

    「成長志向型カーボンプライシング構想」の具体的施策には、「排出量取引制度」の本格稼働(2026年度~)や、「炭素に対する賦課金」制度の導入(2028年度~)等が含まれています。

    【参考】:「成長志向型カーボンプライシングについて」(2023年2月 経済産業省 産業技術環境局 公開資料)

    まとめ

    カーボンプライシングは、企業などが排出するCO₂に価格付けをし、それによって排出者の行動を変容させる経済的仕組みです。脱炭素社会の実現は経済成長と合わせて目指されるものであり、その方法として「成長志向型カーボンプライシング」が実行に移されています。