企業オフィスや工場に再エネが導入される理由とは?
近年になり、企業オフィスや工場で再生可能エネルギーが活用される事例が増えてきています。その背景を、3つのポイントで考えてみましょう。
◇脱炭素社会に向けた動き
気候変動問題が深刻化する現在、その一因とされる温室効果ガスの排出削減に有効な再生可能エネルギーへの注目度が高まっています。
「RE100」とは、世界で影響力のある企業が、事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする協働イニシアチブです。世界各国の多様な分野から企業が参画しており、2023年2月時点の総企業数は397社に及びます。そのうち、日本企業は78社(2023年3月現在)となっています。
また、脱炭素を目指す動きは企業レベルでも加速し、Appleやトヨタ自動車などの大手企業が取引先にCO₂排出量の削減を求める動きも見られます。このように、脱炭素社会実現に向けた取り組みは、企業を評価するひとつの要素になっているともいえるでしょう。
◇ESG投資・経営への注目
投資先選定に際しては、環境・社会・企業統治の3要素を考慮するESG投資が注目されています。投資家を含むステークホルダーのなかでも、再生可能エネルギーの導入など、ESGを意識した経営が企業価値向上につながるという考えが広まっていることが分かります。
◇電気料金高騰による影響
近年、社会的問題となっている電気料金の値上がりも、再生可能エネルギー導入を後押しする要因のひとつです。
2021年11月と2022年11月を比較すると、低圧(電灯)区分で7.25円/kWh、高圧区分で10.16円/kWh、特別高圧区分で9.51円/kWhの上昇が見られます。これだけの値上げとなれば、大きな電力消費を行う工場などには、かなりのインパクトが予想できるでしょう。
こうした背景のなか、とくに自家消費型太陽光発電の分野が注目を集めています。発電した電気を自社で使用することにより、電力会社からの電気購入量を削減。結果、電気料金を抑えることができます。
【参考】:再生可能エネルギー|概要や導入するメリットを紹介
【参考】:【2022年】自家消費型太陽光発電の事業性とは?費用対効果の計算方法も解説
企業による再生可能エネルギー導入・活用例
次に、日本企業による再生可能エネルギーの導入・活用例についてご紹介します。
◇リコー
日本企業としてはじめてRE100に加盟したリコー。2019年の中国の生産会社でのPPAモデル導入や、2021年の独自の再エネ電力総合評価制度導入など、積極的な再生可能エネルギー導入・活用を行ってる企業です。2021年4月より、再生可能エネルギーの使用比率をESG目標に追加することを宣言。2030年度の目標として、事業に使う電力のうち50%を再生可能エネルギーに移行することを目指しています。
【参考】:RE100とは?加盟のメリットや企業事例を詳しく解説
◇AGCグループ
日本・アジア、欧州、米州に拠点を置き「ガラス」「電子」「化学品」「セラミックス」等の事業領域でグローバル展開を行うAGCグループ。安定的な製造を前提としながら、グループ全体で再生可能エネルギーの導入率向上を目指しています。
国内での事例としては、2020年、AGCプライブリコ株式会社茅ヶ崎工場で使用する電力を実質再生可能エネルギーへ切り替えたことが挙げられます。そのほか、AGC本社新丸の内ビルディングでは、東京電力提供の水力100%(CO₂フリー)とみなされる電力を使用しています。
【参考】:脱炭素化とは?その実現に向けた企業の取り組みを徹底解説!
◇イオン
イオンは2018年よりRE100に参画。小売最大手の同社の消費電力は、日本全体の0.8~0.9%に当たるほどの量とも言われています。これまでに、店舗屋上などへの太陽光発電システムやPPAモデルの導入拡大、卒FIT電力の買い取り、各地域での再エネ直接契約の推進など、イオンの取り組みは多岐にわたります。同社は2030年までに日本国内の店舗で使用している電力の50%を再生可能エネルギーに切り替える目標を追加し、グループで排出するCO₂等を2040年までに総量でゼロにすることを目指しています。
【参考】:【法人向け】PPAモデル(第三者所有型)とは?導入のメリット・デメリット、徹底解説!
◇カインズ
ホームセンターチェーンを展開するカインズでは、同社の掲げる「くみまち構想」における「環境領域の活動」として、2025年までに自社店舗・オフィス・倉庫など建屋のカーボンゼロを達成した上で、2050年までにサプライチェーン全体のカーボンゼロを達成すると共に、それぞれの地域の多様なステークホルダーと協働/共創することで、カインズのある「まち」のカーボンゼロ化へ取り組んでいく、というものです。
◇不二家
不二家では、省資源、省エネルギー、CO₂排出量削減などの環境保全問題への取り組みを行っており、2030年度末までにCO₂排出量を2013年度比で46%削減することを目標に掲げています。その取り組みのひとつとして、同社の富士裾野工場や吉野ヶ里工場、秦野工場の屋根上へ太陽光パネルを設置し太陽光発電を行うことにより、電気使用量とCO₂排出量の削減を行っています。
◇キリンホールディングス
キリンホールディングスは、2020年にRE100に加盟し、2040年までに使用電力の再生可能エネルギー100%化を目指す企業です。近年の事例としては、2023年1月の福岡工場と岡山工場における購入電力の100%再生可能エネルギー化が挙げられます。これにより両工場では、購入電力由来のGHG排出量がゼロとなりました。なお、キリンビールでは先行して名古屋工場と仙台工場でも再エネ100%となっており、2023年1月の時点では、全9工場のうち4工場で再エネ100%を達成、キリンビール全体の再エネ比率も42%となりました。
◇味の素グループ
味の素グループは、2020年8月にRE100に参加し、事業活動による環境負荷削減に取り組んでいる企業です。2050年度までに再生可能エネルギーの100%利用を目指しています。RE100参加以前より、グループ内では再生可能エネルギーの利用に取り組んでいました。例としては、本社や国内の各営業拠点におけるグリーン電力証書の購入などが挙げられます。
◇カルビー
日本を代表するスナック菓子メーカーであるカルビー。2019年度より、再生可能エネルギー電源由来のCO₂フリー電力への切り替えや、カーボンオフセット電力、非化石証書付帯の電力の購入を進めています。2020年3月には、関東地区5事業所におけるカーボンオフセット電力への切り替えが発表されました。カーボンオフセットとは、温室効果ガスの発生量を認識した上でできる限り削減を行い、削減が難しかった部分について温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方です。また、2021年には京都工場の屋上に太陽光発電設備を設置。同工場において2020年度比で、1.5%の省エネ効果をもたらしています。
【参考】:二酸化炭素(CO2)排出係数とは?各係数の違いや排出係数削減方法を紹介
◇大和ハウス工業
大和ハウス工業は、再生可能エネルギーを積極的に導入している住宅メーカーです。2020年4月には、施工現場でも再生可能エネルギー由来の電力を使用すると発表しました。同社グループでは、2007年から風力発電所の建設や太陽光発電、水力発電など、再生可能エネルギーによる発電事業を進めており、2018年にはEP100、RE100へ同時加盟。また、2019年からは、「施工」から「暮らし」まで実質再生可能エネルギー100%電力を供給するまちづくりを進めています。さらに、再エネ価値を証書化した「トラッキング付非化石証書」を取得することで、大和ハウスグループ内で再生可能エネルギーの発電から供給、利用までを完結し、“再生可能エネルギーによる自給自足”を実現する取り組みにも注力しています。
◇花王
2030年を目標に、花王グループの全拠点において、温室効果ガス排出量の55%減(絶対量:2017年比)を掲げた花王。目標達成の方法として、自家消費型太陽光発電設備の導入や、購入電力を再生可能電力にするといった取り組みが行われています。また、2021年6月にはRE100へ加盟。花王グループ全拠点の電力について、2030年に使用電力100%を再生可能由来へと移行する目標を設定しています。
◇森永乳業
森永乳業は2019年度の段階からESG経営に取り組み、2030年度までに2013年度比38%以上のCO₂排出量削減を目標に掲げています。また、サプライチェーン全体で環境負荷低減を目指しており、現在温室効果ガス排出の削減などに着手。2050年には、カーボンニュートラルを目指すともされています。
【番外編】海外での再エネ導入例
再生可能エネルギー導入は、Apple、Google、Amazonなど海外のビック・テック企業でも進められています。Googleは、2017年に運営に必要な全ての電力を再生可能エネルギーに切り替えました。Amazonも自社事業に必要な電力を、2025年までに全て再生可能エネルギーで賄うことを目指して取り組んでいます。Appleは、取引の判断材料として相手先の環境対策を重視するようになりました。その結果、Apple製品の製造に関わる213社(2022年4月時点)が、Apple製品の製造をすべて再生可能電力でまかなうことを約束しています。
まとめ
事例を見ても分かるとおり、企業における再エネ導入機運は高まりを見せています。大企業はもちろん、今後は中小企業にもこの波が広がっていくとも考えられるでしょう。特に、太陽光発電設備は近年になり導入しやすい環境が整ってきました。今回の事例を参考に、再エネ導入についてご検討ください。
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