炭素税とは?
炭素税とは、環境保護や資源の持続可能な利用を促進するための環境税の一種です。この税制は、化石燃料(石炭・石油・天然ガス)に含まれる炭素の量に基づいて税金を課すことや、それらの燃料や製品の価格を引き上げることによって実施されます。炭素税の目的は、環境資源の無駄遣いを減らし、CO₂排出量を削減することにあります。これにより、持続可能な環境と地球温暖化の抑制に貢献することが期待されています。
炭素税が必要となる理由
炭素税の必要性と地球温暖化との間には、密接な関係があります。地球温暖化の主な原因は温室効果ガスであり、そのなかでもCO₂の濃度上昇は世界的な課題とされています。地球の気温上昇には自然界の変化も影響しますが、現在進行している温暖化の現象は、自然界の変化だけでは説明できないことが明らかとなっており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書には「人間の影響が大気、海洋、及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。」(出典:IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 暫定訳(文部科学省及び気象庁))と記述されています。
地球温暖化がこのまま進むと、洪水や干ばつなどの異常気象が頻発し、人間の生活の基盤が失われてしまう危険性もあります。これを食い止めるためには、人間がエネルギーを得るために行ってきた化石燃料の大量燃焼によって生じるCO₂の排出を抑制することが必要です。炭素税は、企業などが排出するCO₂に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法であり、カーボンプライシングの一つと位置付けられています。
【参考】:【2023年】カーボンプライシングとは?日本の構想についても解説
【参考】:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)とは?報告書の内容についても解説
諸外国における炭素税
諸外国では、ヨーロッパを中心に1990年代初頭より炭素税(CO₂税)が導入されています。2020年時点で46カ国・32地域において、カーボンプライシング(排出権取引制度、炭素税)が導入されており、世界の温室効果ガスの約22%相当がカバーされています。また、これらの炭素税導入国では、日本と比較して税率が高い傾向が見られます。日本の炭素税に匹敵する「地球温暖化対策のための税」はCO₂排出量1トン当たり289円ですが、2018年時点、世界各国の税率は以下となっています。
※為替レート:日本銀行基準外国為替相場及び裁定外国為替相場(平成30年4月中)において適用
国名 | 税率(円/tCO₂) |
---|---|
日本(温対税) | 289円 |
スウェーデン(CO₂税) | 15,470円(1,150SEK) |
ノルウェー(CO₂税) | 6,912円(500NOK) |
デンマーク(CO₂税) | 3,100円(173DKK) |
スイス(CO₂税) | 11,140円(96CHF) |
フランス(炭素税) | 5,930円(44.6EUR) |
英国(炭素税) | 2,870円(18GBP) |
カナダBC州(炭素税) | 3,010円(35CAD) |
日本における炭素税
「地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)」は日本の炭素税に匹敵します。
地球温暖化対策のための税の施行
日本では2012年10月に「地球温暖化対策のための税」が導入されました。この税制は、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対し、環境負荷(CO₂排出量)に応じて広く公平に負担を求めるもの、と定義されています。具体的には、化石燃料ごとのCO₂排出原単位を用いて、それぞれの税負担がCO₂排出量1トン当たり289円に等しくなるよう、単位量(キロリットル又はトン)当たりの税率が設定されています。また、急激な負担増を避けるため、税率は施行当時の2012年10月以降、3年半かけて3段階に分けて引き上げられました。
地球温暖化対策税の税収は、初年度(平成24年度)391億円、平年度(平成28年度以降)2,623億円と見込まれており、この税収を活用して、省エネルギー対策、再生可能エネルギー普及、化石燃料のクリーン化・効率化などのエネルギー起源CO₂排出抑制の諸施策が実施されています。
地球温暖化対策税は、全化石燃料を課税ベースとする現行の石油石炭税の徴税スキームを活用し、石油石炭税に税率を上乗せする形で課税されますが、石油石炭税は、化石燃料の種類や使用量に基づき税率が設定されています。
化学燃料の種類 | 税率 |
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原油・石油製品 | 2,040円/1キロリットル |
ガス状炭化水素 | 1,080円/1トン |
石炭 | 700円/1トン |
これらの既存の石油石炭税に加えて、「地球温暖化対策のための税」として、CO₂排出量1トン当たり289円が上乗せされます。
【出典】:総合環境政策 地球温暖化対策のための税の導入(環境省HP)
海外の炭素税に比べて低い税率
前述の通り、日本の温暖化対策税は、諸外国の炭素税と比較し税率がかなり低いという特徴があります。温暖化対策税には一定のCO₂削減効果がある一方で、2050年カーボンニュートラルの実現には更なる削減が目指されなくてはなりません。そのため、現在日本では、炭素税に限らず「カーボンプライシング」や「グリーントランスフォーメーション(GX)」などの文脈の中で、CO₂排出削減策に関するあらゆる議論が交わされています。
炭素税の制度メリット・デメリット
既に見てきた通り、炭素税は排出者の行動変容を促すカーボンプライシングの一つとして、多くの国々で導入されています。しかしながら、これらの国々において、端的に炭素税が排出削減を進めた要因と評価することは難しい側面があるのも事実です。それは、世界各国におけるエネルギー需給の特性や企業競争力、税負担の社会的な公平性などを含めた総合的な評価が不可欠となるからです。また、炭素税によるエネルギー価格の上昇は低所得者の負担増にもなるため、導入には慎重な議論が必要です。さらに、新たな課税でのコスト増加によって、企業の税負担が過剰になることで、国際競争力の低下を招くなどの懸念点も指摘されています。
脱炭素に向けた自家消費型太陽光発電の活用
製造業など、事業運営に大量のエネルギーを使用している企業にとって、自家消費型太陽光発電による再生可能エネルギーの活用は脱炭素化の有効な手段です。通常、電力会社から購入する電力は、火力発電(化石燃料)によるものが多くを占めています。化石燃料の利用はCO₂の排出に繋がります。そのため、エネルギー消費が大きい製造業などでは、自家消費型太陽光発電による再生可能エネルギーの活用に着目し、既に多くの企業が導入を始めています。これにより、事業運営に必要な電力の一部を太陽光発電(再生可能エネルギー)で賄うことができ、発電量に応じて自社のCO₂排出量削減が期待できます。また、この取り組みは、電気料金の削減や企業価値の向上にも貢献します。政府も再生可能エネルギーの普及を積極的に推進しており、導入支援のための補助制度が充実しています。
まとめ
脱炭素化社会の実現に向け注目が集まる炭素税。カーボンプライシングの一つとして既に導入済の国も多く、日本でも導入是非をめぐり活発な議論が交わされています。このような中、企業が自社の事業運営で排出するCO₂を削減していく取り組みは、非常に重要なものと言えます。特に、自家消費型太陽光発電の導入はメリットも多く有効な対策と言えます。ぜひこの機会にご検討ください。