温対法の概要と目的
「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)は、日本の地球温暖化対策の基盤となる法律で、地球温暖化の防止を目的としています。そのためには、まず、各事業者が自らの活動により排出される温室効果ガスの量を算定・把握することが基本となります。
この法律は、異常気象の増加や「京都議定書」の採択を受けて、1998年に制定され、国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策を進めていくことを奨励しています。
温対法改正のポイント
温対法は、2023年9月時点、1998年の制定以降で8回改正されており、2021年の改正は「2050年カーボンニュートラル」の宣言を背景としています。この宣言は、パリ協定の目標に基づき、地球の平均気温上昇を2℃より十分下回るよう、更に1.5℃までに制限する努力を継続することを目指すものです。宣言は2050年までに温室効果ガスの排出と吸収または除去の量を、差し引きゼロ(正味ゼロ)にすることを目指すとともに、国際的なメッセージとしての役割も果たしています。この宣言を実現するために、2021年に温対法が改正されました。
【参考】:「カーボンニュートラル」とは?仕組みや国内の取り組みを紹介
パリ協定およびカーボンニュートラル宣言を踏まえた基本理念
2021年の改正により、温対法の基本理念として「カーボンニュートラル」が規定されました。またその実現に向けた地域の再エネ活用や排出量情報のデジタル・オープンデータ化推進の仕組み等が定められています。
地域の再エネ導入の促進を目的とした事業計画・認定制度
新たな事業計画・認定制度が創設された点も大きなポイントです。地方公共団体は再エネを活用した脱炭素化計画を定め、認定を受けた事業については、関係法令の手続きのワンストップ化などの特例が受けられるようになりました。この制度で、地方公共団体が脱炭素化を効率的に進める環境が整備されました。
2023年6月30日時点で、973の自治体が2050年までのCO₂排出実質ゼロを宣言しており、これらの自治体の総人口は日本の総人口の約99%を占めています。カーボンニュートラルの実現にはまだ多くの課題があるとされていますが、国と地方公共団体はその解決と脱炭素化の推進のために協力しています。
企業の脱炭素化促進のための排出量情報デジタル化
2021年の法改正で、企業の温室効果ガス排出量の報告は電子システム化され、情報公開が容易かつ迅速になりました。公開にかかる時間の短縮、さらには企業の脱炭素の取り組みが社会で可視化・評価されやすくなり、ESG投資の活発化が期待されています。
省エネ法との違い
どちらも温室効果ガス排出量の報告義務があるため類似していますが、対象範囲や目的において異なる点があります。
目的
前述のとおり、温対法の目的は温暖化防止や温室効果ガスの排出抑制にあります。一方、省エネ法は1970年代のオイルショックに端を発しており、これまでは化石エネルギーの使用の合理化を目的とする法律でした。しかし2023年の改正後は、非化石エネルギーも含めた全てのエネルギーの合理化及び非化石エネルギーへの転換、さらには電気の需要の最適化を促す法律へと変化しています。
算定対象にも以下のような違いがあります。
温対法の算定対象 | 省エネ法の算定対象 |
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対象者と義務
温対法では、全ての温室効果ガスが対象であり、多量に温室効果ガスを排出する事業者は、事業内容に関わらず対象となります。エネルギー起源CO₂の「特定事業所排出者」としては、省エネ法の特定事業者や特定連鎖化事業者なども含まれます。特定排出者は自らの排出量を算定し、毎年度7月末日まで(特定輸送事業者は6月末日まで)に、前年度の排出量情報を事業者単位で報告する義務があります。
一方、省エネ法の規制対象事業者は事業者全体のエネルギー使用量(原油換算値)が合計して1,500㎘/年度以上である場合、特定事業者又は特定連鎖化事業者の指定を受け、エネルギー管理統括者及びエネルギー管理企画推進者の選任、エネルギー使用状況届出書・定期報告書及び中長期計画書等の提出を行い、遵守すべき判断基準や指針に定められた措置の実践を行うことが義務付けられています。ただし、エネルギー使用量が1,500㎘/年度未満の事業者にであっても、努力義務が課せられている事業分野があります。
温対法が対象とする事業者
温対法は多種の事業者を対象としています。また、多量に温室効果ガスを排出する事業者(特定事業所排出者)に関しては、事業内容にかかわらず温対法の対象となります。以下で、対象となる温室効果ガスと事業者を表でまとめます。
エネルギー起源CO₂
特定事業所排出者 |
全ての事業所のエネルギー使用量合計が1,500㎘/年以上となる事業者
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特定輸送排出者 |
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エネルギー起源のCO₂以外の温室効果ガス
特定事業所排出者 |
以下の要件を満たす事業者
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上記に該当する事業者が対象となり、温対法で定めている「算定・報告」が義務付けられます。
また、事業者・フランチャイズチェーン単位での報告が必要なため、要件を満たしているフランチャイズチェーンもひとつの事業者とみなして報告します。なお、エネルギー起源CO₂の報告には、省エネ法の定期報告書を活用できます。
排出量を算定する流れ
次に、温室効果ガスの排出量を算定する流れについても簡単に見ていきましょう。
ステップ1.排出活動を抽出する
事業者が行っている活動を抽出するために、温室効果ガスごとに定められた排出活動を確認します。
ステップ2.活動ごとに排出量を算定する
以下の計算方法で排出量を算定します。
温室効果ガス排出量 = 活動量 × 排出係数 |
※活動量:生産量、使用量、焼却量など、排出活動の規模を表す指標
※排出係数:活動量当たりの排出量
ステップ3.排出量の合計値を求める
温室効果ガスごとに、活動ごとに算定した排出量を合算します。
ステップ4.排出量のCO₂換算値の算定
以下の計算式で、温室効果ガスごとの排出量をCO₂の単位に換算します。
温室効果ガス排出量(tCO₂) |
※GWP(Global Warming Potential):温室効果ガスごとの地球温暖化をもたらす程度のCO₂との比
排出量の報告に関する手続き
排出量の報告期限や算定対象期間は以下の通りとされています。
報告の期限 |
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特定事業所排出者 | 毎年度7月末日までに報告 |
特定輸送排出者 | 毎年度6月末日までに報告 |
算定対象期間 |
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代替フロン等4ガス(HFC、PFC、SF₆、NF₃)以外の温室効果ガス | 年度ごと |
代替フロン等4ガス | 暦年ごと |
なお、排出量を報告するガスの種類によって、提出書類は異なります。
ガスの種類ごとの提出書類 |
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エネルギー起源CO₂ | 省エネ法による定期報告書 |
上記以外の温室効果ガス | 温対法における「温室効果ガス算定排出量等の報告書」 |
事業者の負担軽減を目的に、省エネ法の定期報告書との併用が認められています。
エネルギー起源CO₂の排出量のみの報告 | 省エネ法の定期報告書を使用し、報告が可能です。 |
エネルギー起源CO₂以外の温室効果ガスの排出量のみの報告 | 温対法に基づく温室効果ガス算定排出量の報告書を使用します。 |
エネルギー起源CO₂と、それ以外の温室効果ガスの両方の排出量の報告 | 省エネ法の定期報告書に、温対法に基づく温室効果ガス算定排出量の報告書を添付して提出します。 |
なお、排出量の報告は温対法によって義務化されており、虚偽の報告または報告しなかった場合に20万円以下の過料が科せられます。
J-クレジットと温対法
J-クレジット制度とは省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO₂等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO₂等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。これらの事業を実施したJ-クレジット創出者はJ-クレジットの売却による利益を得ることが可能です。また、J-クレジット購入者である大企業、中小企業、地方自治体等はJ-クレジットをCDP・SBTへの活用やRE100の目標達成、温対法・省エネ法の報告等に活用することが可能です。
自家消費型太陽光発電による温対法への対策
自家消費型太陽光発電は、企業が自社施設の屋根や敷地に太陽光パネルを設置し、発電した電力を事業活動に利用する手法です。再生可能エネルギー電力の使用により、CO₂排出量の削減が可能となり温対法や省エネ法への対応にも効果的です。さらに、電気料金の削減や非常用電源としての利用、企業の社会的価値向上など、多岐にわたるメリットがあります。
まとめ
温対法は地球温暖化対策における重要な法律です。特に、日本が2050年カーボンニュートラルを実現するためには、この法律に沿った事業者毎の取り組みは必要不可欠ともいえるでしょう。日本企業には、温対法の指針を理解し、かつ自家消費型太陽光発電の活用など、具体的な施策を講じることが求められています。この機会に、ぜひ温対法に対する取り組みを自社でも強化していきましょう。