省エネ法は1979年に制定された法律で、日本における省エネ対策の基盤となるものです。日本では2030年度を目標とした温室効果ガス(GHG)の削減を掲げており、2013年度比で46%削減することが表明されました。また、2050年までには温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡するとして「カーボンニュートラル」が宣言されています。これにより、企業においても省エネ推進が不可欠だといえるでしょう。
特に工場や商業施設、事業所からのGHG排出量は多く、積極的な省エネ施策への取り組みが求められています。
本記事では、省エネ法の概要やメリット、省エネ対策として効果的な取り組みの一つとして注目される太陽光発電を始めとした企業における省エネ対策方法などについて解説します。
省エネ法とは?
省エネ法に取り組むためには、まず省エネ法の目的や内容を理解する必要があります。規制される分野や規模などが細かく定められているので、自社が規制対象となっていないかしっかりと確認しておきましょう。
◇省エネ法の制定目的
省エネ法とは、企業が省エネ対策を行なううえでの判断基準を示す法律で、正式名称は「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」といいます。エネルギーの消費量を減らすことで燃料資源を有効活用し、経済発展につなげていこうというのが主な目的です。
制定のきっかけは1973年と1979年のオイルショック。
石油関連の製品価格が高騰したことで、エネルギー資源の大半を輸入に頼る日本では大混乱が起こりました。その結果、エネルギーの安定供給と効率的な利用が見直され、1979年に省エネ法が制定されたのです。
◇省エネ法の概要
省エネ法では、製品や額の生産に必要なエネルギー消費量(エネルギー効率)の総量である「エネルギー消費原単位」を、年平均1%以上低減するよう求められています。
ただし、低減の対象になるのは特にエネルギー消費量の多い業種のみで、省エネ法において対象となる事業分野が定められているのが現状です。
省エネ法におけるエネルギーは大きく燃料、熱、電気に分類されています。
省エネ法によるエネルギー | エネルギーの詳細 |
---|---|
燃料 |
・ガソリン ・重油 ・その他石油製品 ・可燃性天然ガス ・石炭・コークス ・その他石炭製品(燃焼以外の用途) |
熱 | 上記の燃料を熱源とする熱(蒸気・温水・冷水等) |
電気 | 上記の燃料を起源とする電気(太陽光発電、風力発電、廃棄物発電などの非化石エネルギーは対象外) |
◇対象となる事業分野と規模
省エネ法では、特にエネルギー消費量が多いとされる工場(事業場)・輸送業・機器製造事業等の3事業が規制対象となります。
・工場(事業場)
工場(事業場)については、年度間のエネルギー使用量(原油換算値)を基に義務内容が異なります。
年度間のエネルギー使用量 (原油換算値) | 1,500kL以上 | 1,500kL未満 | |
---|---|---|---|
事業者の区分 | 特定事業者、特定連鎖化事業者 又は認定管理統括事業者(管理関係事業者を含む) | ― | |
事業者の義務 | 選任すべき者 | エネルギー管理統括者及びエネルギー管理企画推進者 | ― |
提出すべき書類 | ・エネルギー使用状況届出書(指定時のみ) ・エネルギー管理統括者等の選解任届出書(選解任時のみ) ・定期報告書(毎年度)及び中長期計画書(原則毎年度) | ― | |
取り組むべき事項 | ・判断基準に定めた措置の実践 ・指針に定めた措置の実践 | ||
事業者の目標 | 中長期的にみて年平均1%以上のエネルギー消費原単位又は電気需要平準化評価原単位の低減 | ||
行政によるチェック | 指導・助言、報告徴収・立入検査、合理化計画の作成指示への対応 | 指導・助言への対応 |
また、年度間のエネルギー使用量が1,500kL以上のエネルギー管指定工場等に指定された場合は、個別で義務が課せられます。
輸送業
輸送においては、荷主と輸送事業者で措置の内容が異なります。
規制基準 | 措置 |
---|---|
荷主 | ■年度間の自らの貨物の輸送量の合計が3,000万トンキロ以上である特定荷主 ・中期計画書の提出 ・年1回の定期報告 ※すべての事業者に省エネの努力義務 |
輸送事業者熱 | ■保有車両数200台以上、鉄道300両以上の特定輸送業者 ・中期計画書の提出 ・年1回の定期報告 ※すべての事業者に省エネの努力義務 |
・機器製造事業等
機器製造事業等については「機器・建材トップランナー制度」による省エネ基準が導入されており、対象の機器や建材を取り扱う事業者に対してエネルギーの消費効率目標が設けられています。
<対象の機械器具等>
・乗用自動車
・エアコンディショナー
・照明器具
・テレビジョン受信機
・複写機
・電子計算機
・磁気ディスク装置
・貨物自動車
・ビデオテープレコーダー
・電気冷蔵庫
・電気冷凍庫
・ストーブ
・ガス調理機器
・ガス温水機器
・石油温水器
・電気便座
・自動販売機
・変圧器
・ジャー炊飯器
・電子レンジ
・DVDレコーダー
・ルーティング機器
・スイッチング機器
・複合機
・プリンター
・ヒートポンプ給湯器
・交流電動機
・電球
・ショーケース
・断熱材
・サッシ
・複層ガラス
◇産業トップランナー制度(ベンチマーク制度)
産業トップランナー制度は、製造業などを中心とした当該事業者が中長期的に達成すべき省エネ基準です。
産業トップランナー制度の対象となる事業者は以下になります。
<事業者>
・高炉による製鉄業
・電炉による普通鋼製造業
・電炉による特殊鋼製造業
・電力供給業
・セメント製造業
・洋紙製造業
・板紙製造業
・石油精製業
・石油化学系基礎製品製造業
・ソーダ工業
・コンビニエンスストア業
・ホテル業
・百貨店業
・食料品スーパー業
・ショッピングセンター業
・貸事務所業
・大学
・パチンコホール業
・国家公務
また、省エネ制度にはクラス分け制度が採用されており、提出した定期報告書の内容によってS(省エネが優良な事業者)、A(省エネのさらなる努力が期待される事業者)、B(省エネが停滞事業者)、C(注意を要する事業者)の4段階へクラス分けされ、クラスに応じたメリハリのある対応の実施を促す仕組みです。
報告徴収や工場等現地調査、立入検査の結果、判断基準遵守状況が不十分と判断された場合はCクラス(要注意事業者)に分類され、指導等が行われます。さらに、エネルギーの使用の合理化の状況が著しく不十分だと認められた場合は、「合理化計画の作成指示」が行われます。
省エネ法特定事業者の判断基準
経済産業省では、各事業者がエネルギー使用の合理化を適切に実施できるよう「判断基準」を公開しています。各事業者は
この判断基準に基づいて運転管理や計測、保守、点検、新設といった管理基準を定める必要があります。
企業における省エネ法の定期報告書届出までの手順
省エネ法の特定事業者は毎年度の7月末日までに、本社の所在地を管轄する経済産業局と事業を所管する主務大臣へエネルギーの使用状況を報告する必要があります。ここでは、定期報告書提出までの主な流れを見ていきましょう。
◇自社が規制の対象になっているか否かをチェック
自社が省エネ法の特定事業者に該当するのかどうかを確認し、該当する場合は以下の手順で定期報告書を提出します。
◇管理者の決定
自社が特定事業者または特定連鎖化事業者であった場合は、まずエネルギー管理統括者等を決めます。
エネルギー管理統括者等の役割や資格要件は以下です。
選任すべき者 | 役割 | 選任・資格要件 | 選任時期 | |
---|---|---|---|---|
事業者単位の エネルギー管理 | 工場棟単位の エネルギー単位 | |||
エネルギー 管理統括者 | ・経営的視点を踏まえた組織の推進 ・中長期計画の取りまとめ ・現場管理に係る企画立案、字痛の統制 | ― | 事業経営の一環として、事業者全体の鳥瞰的なエネルギー管理を行い得る者 (役員クラスを想定) | 選任すべき事由が生じた日以後遅滞なく選任 |
エネルギー 管理企画推進者 | エネルギー管理統括者を 実務面から補佐 | ― | エネルギー管理士またはエネルギー管理講習修了者 | 選任すべき事由が生じた日から6ヶ月以内に選任 |
エネルギー 管理者 | ― | 第一種エネルギー管理指定工場等に係る現場管理 (第一種指定事業者を除く) | エネルギー管理士 | |
エネルギー 管理員 | ― | エネルギー管理士またはエネルギー管理講習修了者 |
尚、エネルギー管理士の免状を取得するには「エネルギー管理士試験」の合格、もしくは「エネルギー管理研修」の修了が必要になります。
◇定期報告書と中長期計画書の提出
年度毎に定期報告書と中長期計画書を提出します。
いずれも、毎年度7月末日までに、本社の所在地を管轄する経済産業局と事業を所管する主務大臣への提出が必要です。
報告を怠った場合・虚偽の報告をした場合の罰則
省エネ法を順守しなかった場合は、以下の罰則が科されます。
◇届出をしなかった場合・虚偽の申請をした場合の罰則
定期報告書、中長期計画書等義務付けられた報告を怠った場合や、虚偽の内容を申請した場合は、50万円以下の罰金が科されます。
◇管理者を選任しなかったときの罰則
エネルギー管理統括者およびエネルギー管理企画推進者等を選任しなかった場合は、100万円以下の罰金が科されます。
また、選任・解任の届出がなかった場合、虚偽の届出をした場合は20万円以下の過料が加わります。
◇目標基準値を達成できなかったときの罰則
エネルギーの使用に関する合理化が十分ではない場合、達成できなかった理由や今後の対応の報告が求められます。それでも改善が見られない場合は経済産業大臣が勧告を行ない、勧告に従わない場合は事業者名の公表および命令といった措置が取られます。
また、この命令に従わない場合は100万円以下の罰金が課されます。
省エネ施策に取り込むことのメリット
特定事業者等は法律に則って省エネに取り組む義務がありますが、省エネ法を順守することを求められない企業においても、省エネ施策を行なうことでさまざまなメリットが得られます。
◇コスト削減
省エネ対策では、機器の交換やシステムの導入などのコストがかかります。場合によっては初期費用が高額になるケースもありますが、省エネ施策によってエネルギーの消費量が減少すれば、結果としてコスト削減が可能です。
◇企業イメージの向上
昨今では日本をはじめ、世界各国で脱炭素化が加速しています。そんななか、省エネ法に適した取り組みは、社会全体の消費エネルギーや、CO2の排出量の削減につながります。また、取り組みの成果や過程を自社のホームページやCSR、環境経営報告書などでPRすることで、企業イメージの向上も期待できるでしょう。
◇設備や機器の寿命が延びる
省エネ対策による消費エネルギーの減少は、普段使っている設備や機器の寿命を延ばすことにもつながります。
簡単なところでは、照明設備への省エネ対策があります。
オンオフをこまめに切り替える、業務に差し支えない程度に照明の数を間引きする、LEDなどの効率の良い照明への交換などの対策が挙げられます。
特に、使用する照明を、長寿命で消費電力が少ないLEDへの交換するのが省エネ対策の観点では効果的です。
省エネ法対策としての太陽光発電と補助金制度
近年、省エネ法の効果的な取り組みの一つとして注目されているのが太陽光発電です。太陽光発電は消費エネルギーを大幅に削減できるうえ、条件を満たせば補助金を活用することができます。
◇自家発電によるCO2排出量の削減
自家発電(自家消費型太陽光発電)とは、発電した電気を自社設備で使用することをいいます。
太陽光発電では太陽光のエネルギーを使って発電するため、CO2の排出量を大幅に削減することが可能です。
一般的に、化石燃料を使用した火力発電では1kWhに対して約690g-CO2/kWh のCO2が排出されます。一方、太陽光発電のCO2の排出量は17~48g-CO2/kWh とかなり少なく、自家発電に切り替えればおよそ650g-CO2/kWh のCO2を削減できます。
◇将来的なコスト削減効果
自家発電であれば電力会社から購入する電力量が減るため、電気代の削減にもつながります。また、J-クレジット制度を利用すれば温室効果ガスの排出削減量を売って利益にすることも可能です。
自家発電の導入には費用がかかりますが、長期的な視野で見ると大幅なコスト削減が期待できるでしょう。
◇利用できる補助金制度
日本では、再生可能エネルギーの導入における補助金制度があります。
対象条件や内容は年度によって異なりますが、令和4年度環境省概算要求における関連制度は「ストレージパリティの達成に向けた太陽光発電設備等の価格低減促進事業」です。
この制度の補助対象および補助率は以下となります。
<補助対象設備・対象者>
・業務用施設等への自家消費型の太陽光発電設備や蓄電池(車載型蓄電池を含む)
・民間事業者、団体
<補助額>
太陽光発電設備 定額
4万円/kW:蓄電池無(PPA/リース/購入)、蓄電池有(購入)
5万円/kW:蓄電池有(PPA/リース)
蓄電池 定額
7万円/kWh(業務・産業用)
省エネ対策事例5つを紹介
ここでは、省エネ対策の事例として太陽光発電、契約電力会社の変更、デマンドコントロール、蓄電池の導入、工場の夜間稼働の5つをご紹介します。
・太陽光発電
太陽光発電の導入により電力会社から購入する電力が減り、電気料金の大幅な削減ができます。
・契約電力会社の変更
新電力の各社を比較し、自社に適した新電力を選ぶことで、電気代が節約できる可能性があります。導入コストがかからないのもメリットです。新電力の各社ごとに、価格やサービスプランは変わることもあるので、定期的にチェックしましょう。
・デマンドコントロールシステム
デマンドコントロールシステムとは、電力消費量の多い時間帯に使用量を制御するシステムのことです。最大需要量をコントロールすることで、基本料金を下げることができます。
・蓄電池の導入 蓄電池を導入すれば、電力消費の少ない時間帯に充電した電力を、消費量の多い時間帯に放電することが可能です。これにより、電力消費が多い時間帯の最大使用量が大幅に減り、電気代の削減につながります。
・ビニールカーテンの活用
生産設備の次に電力使用量が多いのが空調で、温度が1度下がると約10%の電気量料金削減できます。そのため、空調管理システムの導入も効果的ですが、低コストで省エネを実現できるのがビニールカーテンです。 ビニールカーテンで出入り口を遮熱したり、空調の使用範囲を限定したりするだけでも省エネにつながります。
まとめ
省エネ法は、企業が省エネ対策を行なううえでの判断基準を示す法律で、燃料資源を有効活用し、経済発展につなげることが目的です。規制対象となる事業者においては年平均1%以上のエネルギー消費原単位の低減が求められ、各種届出や報告書を提出しないなど義務を怠った場合は、罰金が科されることもあります。
省エネ法の取り組みにはさまざまな施策がありますが、なかでも再生可能エネルギーの活用や、電気料金の削減で期待されているのが太陽光発電です。条件を満たせば補助金も受けられるため、ぜひこの機会に導入を検討してみてはいかがでしょうか。
参考:経済産業省 資源エネルギー庁 省エネポータルサイト
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/
環境省 R4年度概算要求資料
https://www.env.go.jp/guide/budget/r04/r04juten-sesakushu.html