燃料費調整制度の目的と背景
燃料費調整制度とは、火力燃料(原油・LNG・石炭)の価格変動に合わせて電気料金を調整するための制度です。事業者の経営効率化の成果を明確にするとともに、経済情勢の変化を出来る限り迅速に料金へ反映させ事業者の経営環境の安定を図ることを目的に、1996年に導入されました。制度導入当初は、燃料価格の変動を3ヶ月ごとに調整し、3か月後の電気料金に反映していましたが、燃料価格の大幅かつ急激な変動を背景に平成21年に調整期間や反映期間の見直しが行われています。
燃料費調整額について
燃料費調整額は、火力発電に必要な燃料価格の変動を基に算出され、電気料金に毎月適用されます。燃料費が高くつけば電気料金が上がりますし、その逆も然りです。
しかし、当月に燃料価格が増大したからといって、すぐにそれが燃料費調整額に反映されるわけではありません。後述する一定のタイムラグで、電気料金に対して上乗せされます。
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燃料費調整額の反映タイミング
燃料費調整額の変動は「燃料費調整単価」にて毎月反映されます。これは、電力使用量1kWh当たりの調整額のことです。
3カ月間の平均燃料価格から調整額が算出され、その2カ月後に電気料金に反映されます。たとえば、2022年6月~8月の平均燃料価格は11月の電気料金に適用されます。
このように、電気料金は3~5カ月前の市場の動きが反映されています。燃料費を左右するような何らかの事象が発生した場合には、遅れてその影響が出ることを理解しておくことが重要です。
燃料費調整単価の算出式
燃料費調整額は必ずしも電気料金の増加につながるわけではありません。実際には、下降することで電気料金が安くなるケースもあります。
その仕組みは以下の算出式によって説明できます。
【プラス調整】平均燃料価格が基準燃料価格を上回る場合
燃料費調整単価(銭/kWh)=(平均燃料価格ー基準燃料価格)×基準単価/1,000
【マイナス調整】平均燃料価格が基準燃料価格を下回る場合
燃料費調整単価(銭/kWh)=(基準燃料価格ー平均燃料価格)×基準単価/1,000
※燃料費調整単価は、小数点以下第1位で四捨五入。
上記算出式に含まれるそれぞれの価格について説明します。
1)基準燃料価格
基準燃料価格とは、料金設定の前提となる平均燃料価格を指します。
燃料毎の平均価格(原油換算1klあたり)を基に算出されます。
2)毎月の平均燃料価格
原油・LNG・石炭それぞれの3ヶ月の貿易統計価格と下記算式より算定されます。
平均燃料価格(原油換算1klあたり)=A×α+B×β+C×γ
A:3ヶ月における1klあたりの平均原油価格
B:3ヶ月における1klあたりの平均LNG価格
C:3ヶ月における1klあたりの平均石炭価格
α・β・γは、原油換算の平均燃料価格を導き出すために、各燃料の構成比を乗じた係数(原油換算率×燃料種別熱量構成比)であり、電力会社ごとに値が異なります。
3)基準単価
平均燃料価格が1,000円/kl変動した場合に発生する電力量1kWhあたりの変動額
上述の算出式の通り、平均燃料価格が基準燃料価格を超えたら、プラス調整、下回ればマイナス調整が行われます。
なお「燃料費調整単価」は、各電力会社のホームページなどで公表されています。
燃料費調整額の算出式
前項を基に算出された電力会社毎の燃料費調整単価を基に、毎月の購入電力量に応じて、燃料費調整額が算出されます。
燃料費調整額(円)= 燃料費調整単価(円)×1ヶ月の使用電力量(kWh)
たとえば、2023年11月分の関西電力管内の燃料費調整単価は、以下の通り公表されています。
(税込・円)
区分 | 燃料費調整単価 | |
---|---|---|
高圧供給 | 1kWhにつき | +2.29(+4.09) |
特別高圧供給 | 1kWhにつき | +4.04 |
※表中の()内の数値は、国の「負担緩和策」による料金値引き前の燃料費調整単価となります。
燃料費調整額の上限
増加によって大きなインパクトが生じる燃料費調整額ですが、その額が青天井の場合、企業はもちろん国民にも突如として大きな負担が降りかかる可能性があります。こうした事態を想定し、燃料費調整額には契約プランによって「上限」が設定されています。具体的には、料金プランの基準燃料価格の1.5倍を超えることはできません。ただし、これは従量電灯プランや定額電灯のような低圧電力の「規制料金」プランにのみ適用されるものです。電力自由化以降の「自由料金」プランにはこの上限はなく、新電力や一部の大手電力のプランでは制限がないため注意が必要です。
さらに、最近では燃料価格の上昇を背景に、多くの電気事業者が上限を撤廃しています。同様に、自由料金プランで独自の上限を設定していた企業も、それを撤廃する動きが見られるため、契約時には確認をしておきましょう。
燃料費の動向
近年、世界的に資源価格が高騰していますが、それに加えロシア・ウクライナ情勢等を背景に、全ての燃料種において燃料価格が急騰している現実があります。また、円安の継続という為替動向も大きく影響しています。この動向を踏まえ、政府は、燃料価格の高騰による負担軽減のため、電気・都市ガスの使用量に応じた値引きを行う「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を2023年12月使用分までを期限として実施しています。(2023年10月現在)
燃料費調整額と再エネ賦課金との違い
燃料費調整額と同様、毎月の料金額に変動がある電気料金項目として、「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ割賦金)」があります。これは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度に基づき、電力会社が再生可能エネルギーを買い取る際の費用を電気利用者が負担する制度です。
燃料費調整額 | 再エネ賦課金 | |
---|---|---|
金額の基準 | 各電力会社によって異なり、燃料価格や使用量に応じて算定される。 | 国が一律で定める当該年度の適用単価を基に、使用量応じて算定される。 |
単価の変動 | 毎月の燃料価格が燃料費調整単価に影響。変動値によりプラス調整・マイナス調整がある。 | 年度毎に変動。再エネ買取費用と電力の市場価格に応じて変動する。 |
【参考】:再エネ賦課金とは?2023年の急落や固定価格買取制度との関係も解説!
【参考】:【法人向け】電気料金を削減するには?電気料金削減の成功事例を紹介
太陽光発電による自家消費で電気料金対策
これまで見てきた通り、燃料費調整額は外部要因によって大きく上昇する可能性があり、予測も難しい項目です。単価は2019年まで下降傾向にありましたが、ロシア・ウクライナ情勢等によって大幅な上昇となりました。政府によるコントロールも難しいため、企業側の対策は困難です。
そこで、根本的な解決につながるのが自家消費型太陽光発電です。これは企業が自社の建物や敷地に太陽光発電システムを設置し、その電気を利用することです。電力会社からの購入電力量を減らせるため、電気料金や燃料費調整額、再エネ賦課金の削減につながります。
また、太陽光発電は電気代の削減だけでなく、CO₂の削減、税制優遇、非常用電源としての利用、遮熱効果など数多くのメリットがあります。初期費用は高額にはりますが、適切な設置で長期的なコスト削減効果が見込めます。
まとめ
燃料費調整制度の仕組みを理解することにより、系統からの電力購入は外部環境の変動リスクを孕むことが見えてきます。電力調達における長期的なコスト削減と変動リスクの軽減を図るためには、自家消費型太陽光発電がおすすめです。