【基礎知識】託送料金とは?
まず初めに、レベニューキャップ制度をより深く理解するため、託送料金について解説します。
託送料金は、送配電ネットワークの利用料金のことを指し、小売電気事業者から一般送配電事業者に対して電力量に応じて支払われるものです。小売電気事業者は一般の電気需要(一般家庭、企業、商店等)に向けて、電気を小売していますが、この託送料金を含む費用を電気料金という形で徴収しています。
電気事業者は以下の3つに大別されます。
事業者 | 役割 |
---|---|
発電事業者 | 発電した電気を小売電気事業者に供給する |
送配電事業者 | 発電事業者から受けた電気を小売電気事業者等に送配電ネットワークを利用し供給する |
小売電気事業者 | 一般の需要(一般家庭、企業、商店等)に対し電気を小売する |
レベニューキャップ制度とは?
レベニューキャップ制度を端的に言うなら、一般送配電事業者が、一定期間毎の「収入の見通し」について国から承認を受け、その範囲で柔軟に託送料金を設定する制度です。この制度の下では、経営効率化によるコスト削減分は一般送配電事業者の利益となります。また効率化成果が翌期収入上限に反映されることで系統利用者へも還元されます。
レベニューキャップ制度の流れ
レベニューキャップ制度がどのような流れで審査され、収入上限等が決まるのか、具体的に見ていきましょう。
1. 一般送配電事業者が、国の策定する指針に基づき一般送配電事業に係わる事業計画及び投資・費用の見通し(「収入の見通し」)を5か年分策定し、国に提出する
2. 国が「事業計画」及び「収入の見通し」を審査し収入上限を承認する
3. 一般送配電事業者が、収入上限の範囲内で託送料金を設定する
このように、レベニューキャップ制度では事前の計画に基づいて投資や費用の見積もりが行われ、審査や承認を経て託送料金が設定されます。事業計画における一般送配電事業者の目標には、例えば、再エネ導入拡大を狙いとした新規再エネ電源の早期かつ着実な連系や系統の有効活用、発電予測精度向上など詳細な項目が設定されています。また一部の目標には、達成状況に応じて、翌期収入上限のボーナスやペナルティが適用されます。なお、これらの事業計画や収入上限の審査は「電力・ガス取引監視等委員会」の専門家により厳格に行われています。
レベニューキャップ制度の背景
レベニューキャップ制度には、電力業界の投資資金確保と、国民負担の抑制の両立という目的があります。レベニューキャップ制度が開始された経緯について、流れに沿って見ていきましょう。
一般送配電事業者を取り巻く事業環境の変化
まず、日本の電力需要は高度経済成長期から大幅に伸長を続けてきましたが、近年の人口減少や省エネの進展により、今後は横ばいで推移すると見込まれています。また、再生可能エネルギーの導入やデジタル化対応、既存設備の更新などに関する必要コストが年々増加傾向にあることが大きな課題になっています。
コスト削減をしても増えない利益
従来の託送料金制度では問題点も指摘されていました。これまでは、電気を安定的に供給するために必要な費用に一定の利益を加えた額(総原価等)と電気料金の収入が等しくなるように料金が設定されていました。電気事業は公益性が高く、赤字が出ない設計とするためです。これを「総括原価方式」と言います。総括原価方式の下では、一般送配電事業者が企業努力により経営効率化を進めても利益に反映されないため、コスト削減の意欲がそがれてしまいます。また、老朽化が進む送配電設備には、維持更新のための費用が必要ですが、これを託送料金の値上げで賄うことは、需要家が費用を負担している手前、容易ではありませんでした。
レベニューキャップ制度で問題を解決
こうした問題に対応すべく整えられたのがレベニューキャップ制度です。5年間の収入上限が固定されており、コスト削減分が一般送配電事業者の利益となるため経営効率化のインセンティブが生まれます。総括原価方式のように、企業努力でコストを削減しても利益率が上がりにくいといった事態が起こりにくくなるのです。
ただし、収入上限を超えて収入を得ていないかは、期間中必要に応じ評価が行われます。5年の期間終了後に次の5年の収入上限の審査があります。一般送配電事業者が効果的にコスト削減を実施していれば、次の5年の収入上限や託送料金の低減につながります。託送料金の値下げは、実質需要家の負担軽減です。レベニューキャップ制度によって、私たちの電気料金が安くなる可能性もあるのです。
レベニューキャップ制度による効果
前項でも解説したとおり、レベニューキャップ制度のメリットは、一般送配電事業者による経営効率化と消費者への還元です。
以下で、それぞれのポイントについてまとめます。
コスト削減の促進
レベニューキャップ制度の導入により、一般送配電事業者にはコスト削減による利益増大のインセンティブが生まれます。
消費者負担軽減
レベニューキャップ制度では、5年毎に事業計画が見直され、国による審査・承認を経て実施されます。次回は2028年4月となりますが、この時点で一般送配電事業者の効率化が図られていれば、託送料金の値下げに踏み切る可能性もあるでしょう。
投資費用の確保
自然災害による送配電網の損害に対して、レベニューキャップ制度では翌期の収入上限変更を認めています。地震や台風等によって送配電網が使えなくなった際などの救済措置的な取り決めと言えるでしょう。これにより、突発的な資金ニーズに対応し、安定した電気供給を継続的に行うことが確保されます。
一般送配電事業者が策定する事業計画とは?
次に、一般送配電事業者が策定する事業計画についても、詳しく見ていきましょう。
目標計画
国の指針に従い以下7つの事項に沿った目標設定とその考え方、具体的な取組内容の提出等が求められています。
1. 安定供給
2. 再エネ導入拡大
3. サービスレベルの向上
4. 広域化
5. デジタル化
6. 安全性・環境性への配慮
7. 次世代化
前提計画
投資判断の基礎となるデータや、発電、需要の予測、再エネ連系量等の見通し数値を示します。この際、数値の算定方法を根拠として明記しなくてはなりません。
供給区域全体の需要の見通し(kW, kWh)
供給区域全体の発電(供給力)の見通し(kW, kWh)
供給区域全体の再エネ連系量の見通し(kW, kWh)
供給区域全体の調整力量の見通し(kW, ΔkW, kWh)
収入上限の全体見通し
事業計画の実施に必要な費用をすべて見積もった上で、収入上限として国に申請を行います。この際には、概要や内訳はもちろん、過去実績との比較など、妥当性についても確認ができる資料が求められます。
事業計画
事前計画で示した目標を達成するために、具体的にどのような取り組みを行うかについて提出します。
事業計画【費用】 | OPEXの見通し額、各費用の見通し、算定方法、過去の実績の推移、要員計画など |
---|---|
事業計画【投資】 | 設備拡充計画、設備保全計画、その他投資計画、次世代投資計画など |
効率化計画
各事業計画の効率化効果を確認する観点で、以下内容についても記載が求められます。
これまでの効率化の取り組み内容と今後の中長期方針
申請時の見積費用に反映した効率化内容
【出典】:託送料金制度(レベニューキャップ制度)における事業計画について 第14回料金制度専門会合事務局提出資料(電力・ガス取引監視等委員会)
地域別の託送料金値上げ幅まとめ
一般送配電事業者各社による認可申請が承認された結果、託送料金単価は下表の通り改定され、2023年4月1日より実施されています。これに伴い各小売電気事業者の電気料金プランにおいても値上げが実施されました。
(税抜き、円/kWh)
地域 | 値上げ幅 | 見直し後託送料金平均単価 | |
---|---|---|---|
北海道電力ネットワーク | 低圧 | +0.77円/kWh | 10.02円/kWh |
高圧 | +0.6円/kWh | 4.81円/kWh | |
特高 | +0.12円/kWh | 2.83円/kWh | |
東北電力ネットワーク | 低圧 | +0.99円/kWh | 10.75円/kWh |
高圧 | +0.17円/kWh | 4.83円/kWh | |
特高 | +0.06円/kWh | 2.32円/kWh | |
東京電力パワーグリッド | 低圧 | +0.2円/kWh | 9.02円/kWh |
高圧 | +0.32円/kWh | 4.24円/kWh | |
特高 | +0.14円/kWh | 2.40円/kWh | |
中部電力パワーグリッド | 低圧 | +0.42円/kWh | 9.51円/kWh |
高圧 | +0.44円/kWh | 3.91円/kWh | |
特高 | +0.15円/kWh | 2.07円/kWh | |
北陸電力送配電 | 低圧 | +1.13円/kWh | 8.98円/kWh |
高圧 | +0.67円/kWh | 4.57円/kWh | |
特高 | +0.4円/kWh | 2.35円/kWh | |
関西電力送配電 | 低圧 | +0.27円/kWh | 8.20円/kWh |
高圧 | +0.71円/kWh | 4.85円/kWh | |
特高 | +0.08円/kWh | 2.38円/kWh | |
中国電力ネットワーク | 低圧 | +1.34円/kWh | 9.63円/kWh |
高圧 | +0.71円/kWh | 4.75円/kWh | |
特高 | +0.22円/kWh | 2.07円/kWh | |
四国電力送配電 | 低圧 | +0.93円/kWh | 9.72円/kWh |
高圧 | +0.56円/kWh | 4.81円/kWh | |
特高 | +0.09円/kWh | 2.38円/kWh | |
九州電力送配電 | 低圧 | +0.94円/kWh | 9.68円/kWh |
高圧 | +0.61円/kWh | 4.60円/kWh | |
特高 | +0.19円/kWh | 2.62円/kWh | |
沖縄電力 | 低圧 | +1.39円/kWh | 11.88円/kWh |
高圧 | +0.97円/kWh | 6.73円/kWh | |
特高 | +0.56円/kWh | 4.21円/kWh |
電気代値上げに対する対策なら太陽光発電
電気料金の上昇リスクを回避する方法として、自家消費型太陽光発電システムの導入がおすすめです。自社の工場や敷地内に太陽光発電システムを導入すれば、自社事業で使用する電力を賄うことができます。電力会社からの購入電力量を減らすことで、電気料金の削減につながります。また、再エネ電力の利用によるCO₂排出量の削減効果も得られます。
まとめ
今回はレベニューキャップ制度を中心に、託送料金に関する基礎知識をご紹介しました。レベニューキャップ制度の影響は、今の所、値上げという形で私たちの負担になっています。しかし、5年後にはまた別の結果が生まれる可能性も少なくはありません。制度を理解した上で、日本の電力事情の動向を注視していきましょう。